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最高裁判所大法廷 昭和24年(れ)1909号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人谷村唯一郎、同塚本重頼の上告趣意は、末尾に添えた別紙記載のとおりである。

(一)  論旨第一点は、「地方自治法第七三条が衆議院議員選挙法第一三七条の規定を準用するのは憲法第一五条第三項に違反するものであるにもかかわらず原判決が本規定を判断の対象として居ることは違法である」と主張する。憲法第一五条第三項および第九三条第二項は、公共団体の議員が当該公共団体の住民たる成年者による直接の普通選挙で選ばるべきことを規定しているのであり、すなわち当該公共団体の住民以外による選挙であってはならずまた間接選挙、制限選挙であってはならないことを保障したまでであって、合理的な理由により特定の欠格事由を定めることを許さない趣旨でないことは明かであり、そして選挙に関する犯罪者にも選挙権被選挙権を行使させることを適当としない場合があり得るので、地方自治法第七三条は衆議院議員選挙法第一三七条を地方公共団体の議員選挙に準用したのである。憲法第四四条は国会議員のみに関してその選挙人の資格は法律で定める旨を規定しているのに、地方公共団体の議員選挙にはその規定がないから、後者の選挙権被選挙権は法律を以っても制限し得ないものである、と論旨は主張するが、しかし憲法四四条に「法律で定める」というのは、法律で定めなくてはいけないということであり、その規定がないからとて、法律を以ってしても制限できないということにはならない。国会議員についてさえ法律で選挙資格を定め得るのだから、地方公共団体の議員選挙についても同様であるべきことは当然であって、論旨はすべて理由がない。

(二)  論旨第二点は、原判決は採証の法則に違反している、というのである。すなわち本件は、被告人および第一審相被告人柄本喜寛(選挙事務長)風祭治一、風祭光行(いずれも選挙運動者)が戸別訪問をしたのは、被告人が立候補するにつき推薦人になってもらうためであって、投票を得る目的でなかったことは、原判決引用の聴取書の残りの部分に記載されているにかかわらず、原判決が投票を得る目的で戸別訪問をしたとも取れる部分のみを引用して有罪判決の証拠としたのは採証法則に違反する、というのである。よって記録を調べて見ると、被告人らは、既に第一審公判においても推薦人になってもらうための訪問であることをほのめかし、殊に原審公判においてはその旨を強調しており、また第一審および原審の証人はいずれも、推薦人になってくれとの趣旨の訪問であった旨を供述しているのである。しかし他方検事の聴取書、司法警察官の聴取書等によれば、被告人および第一審相被告人らが被告人の名刺数枚を各戸に置いて来たことを認め得るのであって、かような事は単に推薦人になってもらう目的のみしかなかったものとは認められ得ない。かりに推薦依頼のためだけであると考えると、それを無罪であるとする論旨引用の大審院判例もあるが、それは推薦状に名をつらねてもらうだけの目的で訪問した事案にかかり、当時の大審院判例も、推薦依頼のための訪問が投票を得または得させる目的を含むものと認められる場合には戸別訪問として処罰しているのであって(昭和二年(れ)第一四八九号同三年一月二四日第一刑事部判決)、本件は正にその事例に相当する。そして原判決挙示の証拠によって判示事実が認定され得るのであって、供述中の一部を証拠に採り他を措信しなかったとて、直ちに採証法則に違反があるとは言えない。そしてそれらの補強証拠がある以上、被告人の自白を唯一の証拠としたという非難は当らず、論旨は理由がない。

よって、旧刑訴第四四六条に従い、主文のとおり判決する。

以上は、裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 小谷勝重 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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